Column
投稿日:2024年11月1日/更新日:2024年11月1日
●はじめに
脳腸相関という研究が注目を集めています。私たちの脳の状態が腸に影響を及ぼし、逆に腸の状態も脳に影響を及ぼすことを言います。
脳と腸は自律神経系やホルモン、私たちの身体を異物から守る上で重要な役割を果たすサイトカインなどを介して密接に関与していることが知られています。
成人を対象にした研究では、腸内細菌叢が心の健康にも関連することがこれまで 報告されていますが、幼児期を対象にした報告はほとんどみられていませんでした。
目次
私たちの感情を司っているのは大脳辺縁系の前頭前野というところで、感情をコントロールする働きをすると言われています。
幼児期は前頭前野の発達に伴い、 我慢や欲求を制御する感情抑制が育つ時期と言われています。Fujiwara らは幼児が感情制御を含むいくつかの認知機能に対して、腸内細菌叢が関連していることを報告しています(Fujiwara H., et. al., Microorganisms, 2023, 11(9):2245.) 。
自己の感情制御は認知制御を併せて実行機能と総称されているようですが、これが大きく発達する時期が4歳前後で、この時期の発達が生涯にわたって脳や健康を予測する重要な因子であると報告しています。
一方、成人を対象とした研究では、腸内細菌叢の特性が、うつ病や不安障害などの精神疾患および認知機能に関連することが多く報告(本郷道夫. Jpn. Psychosom. Med., 2022, 62: 451-457)されています。
驚くべきことは、生涯もつ個人の腸内細菌叢の基盤となる時期が生後3~5歳で決定し、それが 情制御が顕著に発達する幼児期とちょうど一致することです。
Matsunaga らは感情制御の発達リスクは 、緑黄色野菜の摂取頻度の低さや偏食にも関連すると報告(Commun Biol., 2024 29; 7(1): 235)し、腸内細菌叢が安定化していない幼児期の食環境がとても重要であることが示唆されます。
感情が不安定な幼児期の腸内細菌を調べたところ、アクチノマイセス属、サテレラ属という細菌が多く分布していることが報告されています。
これらの細菌は大人の細菌叢を調べた研究で、血中の炎症性の指標となる細菌であることが指摘されています。
すなわち、幼児期の感情のコントロールの難しさは、炎症との関連が指摘される腸内細菌が関係している可能性があることが示唆されています。
最近の研究で、『ストレスを受けるとその生体内で、炎症を起こす物質が発生する』ということが分かってきています。
体内で炎症反応が起きるとストレスホルモンが分泌され、それが脳にストレスがかかることで正常な働きができなくなると考えられています。
基本的に幼児期は身体の形成はもちろん 味覚に関しても成長の段階のため、お子さんによっては食べられない物が出てくる時期でもあります。
栄養があるといって無理に食べさせようとすると余計に食べないこともあります。 親御さまはお子様に好きな食べ物を入れて工夫してみてはいかがでしょうか?
楽しく食べてもらうために、食環境を整えてバランスの良い食事を心がけたいものです。
どうしても偏食傾向が変わらないお子さまは管理栄養士や医師に相談するのも良いでしょう 。
腸内環境のバランスを整えるには食事に加え、十分な睡眠をとり、外の自然環境で遊ばせることも重要です。
Marja ら (Marja IR., et. all., Puhakka, R. and Grönroos, M. (2020) Sci Adv, 2020, 6(42); eaba2578. )は自然環境下の子どもの免疫関係を調べる研究を行っています。
その結果、都市寄りの保育園に緑を増やした群の子どもたちは、自然豊かな保育園に通う子どもたちと同じように皮膚常在菌の多様性が高くなったことが確認されました。
一方、都市部の標準的な保育所に通う子どもたちは、皮膚常在菌の多様性が全体的に低下していました。つまり外の自然環境に触れることは、子どもの皮膚常在菌の多様性を高め、免疫機能の向上にも役立つため、外遊びは重要と思われます。
今後多くの研究報告が必要ですが、幼児期の感情制御力と腸内細菌叢の状態には、密接な関係がある ことが分かりました。
この研究報告では食環境や自然環境での外遊びなどが腸内細菌叢全体に関わっていることが示唆されるので、普段のお子さまの生活を見直すきっかけになれば良いかと思います。
しかし、感染症対策は必要ですが、過度に神経質にならず、上手に細菌と共生する気持ちが大事でしょう。幼児期の健康的な身体作りが生涯にわたって影響するという 新たな視点の研究報告でした。