arginine
投稿日:2023年2月6日/更新日:2024年3月22日
近年、アルギニン含有のスポーツ飲料や栄養食品、サプリメントなどを見かけることが多くなりました。アルギニンとはアミノ酸の一種で、体内でも生成できる非必須アミノ酸です。
アルギニンの効能には、血管の拡張促進や疲労回復効果、美容効果のほかにも成長ホルモンの分泌促進や不妊治療の効果などがあります。しかし、過剰摂取をすると消化器官に影響し下痢や胃痛などの副作用を引き起こす場合もあるため、注意しなければなりません。
本記事では、アルギニンの健康効果や効率的な摂取方法、副作用について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
アルギニンは、マメ科の植物のルピナスの芽から1866年に抽出された「非必須アミノ酸」の一種です。
非必須アミノ酸とは、人間の体内で作り出せるアミノ酸を指します。対して、体内で合成できないアミノ酸は「必須アミノ酸」に分類され、食事によって摂取しなければなりません。
ただし、アルギニンは体内で微量しか合成されないため、不足分の摂取が必要です。そのため「準必須アミノ酸」や「条件付きアミノ酸」とも呼ばれています。
なお、乳幼児や成長期のお子様は、体の発達に使用されたり運動量が多かったりといった理由から必要量のアルギニンを体内で形成できません。また、大怪我をしている場合や手術後など、体力を激しく消耗している際は、成人でもアルギニンの合成が困難になります。
そのため、毎日の食事やサプリメントからアルギニンを補填する必要があるのです。
アルギニンには6つの健康効果が挙げられます。
・成長ホルモンの分泌を促進
・血管の拡張促進
・免疫力向上
・疲労回復効果
・美容効果
・不妊治療にも効果的
それぞれの健康効果について解説していきます。
アルギニンの特徴的な健康効果の1つが、成長ホルモンの分泌を促進する働きです。
脳下垂体から分泌される成長ホルモンの作用を活発化させることで、病気への抵抗力や免疫力・治癒能力の向上といった健康効果に期待できます。
また、成長ホルモンには食欲を抑える作用もあり、食欲抑制剤にも加えられています。
さらに、脂肪代謝を促して筋肉を増やす効果に期待でき、引き締まった体づくりにも有効な成分です。そのため、ボディビルダーやトレーニングが趣味の方の間では栄養補助材としても重宝されています。
アルギニンは、血管の拡張促進効果にも期待できる成分です。
体内に取り込まれたアルギニンはシトルリンに変換され、一酸化窒素を形成します。一酸化窒素には、血管を拡張して血流を良好にする作用があるため、動脈硬化や心筋梗塞、並びに脳梗塞や冷え性など生活習慣病のリスク低減が可能です。
また、アルギニンが生成する一酸化窒素により、アンチエイジングや男性機能(勃起力)の向上も期待できます。
人間は加齢による体内の一酸化窒素の減少に伴い、血管の老化・硬化が進みます。アルギニンの摂取によって、体内の一酸化炭素を増加させることで、健康で柔軟な血管の維持や勃起不全の予防が可能です。
アルギニンには、免疫細胞である「マクロファージ」の働きを活発化させる効果があります。
マクロファージとは、体内に侵入したウイルスや細菌などと戦う白血球の1種です。つまり体内のマクロファージを活性化するアルギニンの摂取によって、免疫力を向上させ、病気に負けない強靭な体を作る効果に期待できるのです。
また、アルギニンは体組織の修復や細胞増殖のために必要なポリミアンを合成し、傷の完治に重要な成分の結合にも関係します。そのため手術後の回復を促し、感染症合併の発症率を低減する目的でアルギニンを配合した輸液が使用されています。
【参考】Arginine and Immunity | The Journal of Nutrition | Oxford Academic
アルギニンの健康効果の1つとして、疲労回復効果が挙げられます。
アルギニンには、体に疲れを残す要因となる疲労物質「アンモニア」を解毒する作用があります。血中のアンモニア濃度が上昇すると、有害成分である「アセトアルデヒド」が発生。その作用によって人体はエネルギー不足に陥った結果、疲労を感じます。
したがって、疲労を軽減するためには、体内のアンモニア濃度の低下・抑制が重要なポイントです。
アルギニンには、体内のアンモニアを尿素に変化させ解毒する「尿素サイクル」の活性化作用があります。つまり、血中のアンモニア濃度を効率よく低下させるサポートをすることで、疲労回復効果を得られるのです。
アルギニンは美容効果にも期待できる成分です。
アルギニンは男性向けの成分というイメージがありますが、美容を気にする女性にも多大なメリットがあります。
肌は角質層、表皮層、真皮層の各層に分かれており、肌が乾燥している時は角質層の水分が不足してかさついている状態です。アルギニンの天然保湿成分によって、角質層の保湿が可能なため、肌の潤いを保ち、みずみずしい肌作りの効果が期待できます。
また、毛髪にあまり刺激を与えないため、パーマ液にも利用されています。
アルギニンは、性別を問わず不妊治療を受ける方に効果的な成分です。
下記の3点が女性不妊症へのアルギニンの効果です。
・子宮内膜を厚くする効果
・妊娠しにくい女性の妊娠促進効果
・妊娠高血圧症候群の予防効果
アルギニンは、子宮放射静脈の血流を良好にし、子宮内膜を厚くする効果があります。
また、不妊治療中の女性がアルギニンを摂取すると卵母細胞、並びに胚が増加します。妊娠促進効果が期待でき、妊娠高血圧症候群の発症予防にも効果的です。
男性不妊症へのアルギニンの効果は、下記の3点が挙げられます。
・精子数、精子運動性増加作用
・ED(勃起不全)改善作用
・バイアグラとの併用による効果の増強作用
アルギニンは精子の数を増加させ、活発化させるために必要な成分です。成長ホルモンの分泌を促し、精子の成育・増大をサポート。さらに、精子運動に大切な働きをするポリミアンを形成し、精子を活発にします。
なお、ED(勃起不全)は一酸化窒素の生成量が減少し、血管が拡張しづらくなった結果、発病するといわれています。アルギニンは血管内の一酸化窒素形成を回復させるため、ED(勃起不全)の改善に効果的です。
アルギニンはタンパク質の含有量が多い食品に豊富に含まれています。
なお、アルギニンが豊富に含まれている代表的な食品は以下の通りです。
食品名 | 100gあたりの成分量(g) |
---|---|
たたみいわし | 4.6 |
ごま(乾) | 2.9 |
まだら(干し) | 4.5 |
らっかせい(乾) | 3.3 |
すいか | 5.1 |
牛肉(もも・皮下脂肪なし・ゆで) | 2.1 |
するめ | 4.5 |
帆立貝柱(煮干し) | 5.3 |
ゼラチン | 8.1 |
しろさけ(削り節) | 4.6 |
とびうお(煮干し) | 5.0 |
かつお節・削り節 | 4.4 |
かずのこ(乾) | 4.6 |
えび(干しえび) | 4.6 |
大正えび(養殖・生) | 2.1 |
凍り豆腐(乾) | 4.4 |
若どり肉(むね・皮なし・焼き) | 2.6 |
湯葉(乾) | 4.3 |
あわび(干し) | 3.7 |
しらす干し(半乾燥品) | 2.5 |
アーモンド(フライ・味付け) | 2.5 |
豚肉(ヒレ・赤肉・焼き) | 2.5 |
かぼちゃ | 4.7 |
きな粉(全粒大豆) | 3.0 |
【参考】食品成分データベース
とくに成長期のお子様は運動量も多く、体の成長にもアルギニンが使われます。
毎日の食事で肉、魚、大豆製品をバランスよく取り入れたり、ナッツ類を間食として利用したりなど、アルギニンを習慣的に摂取するよう心がけましょう。
アルギニンの1日における推奨摂取量は正確に定められていませんが、健康効果を得るには、目安として2,000~4,000mg以上必要といわれています。
なお、約1,000mgのアルギニンが摂取可能な食材の例としては、下記が挙げられます。
・牛肉(ひき肉)ハンバーグ1個分
・豚肉(ロース)薄切り4枚
・卵2〜3個分
・マグロ刺身7切れ
上記から、1日の推奨摂取量を食材のみでクリアするには、ハンバーグであれば2〜4個、卵であれば4〜12個の摂取が必要だと分かります。
しかし、毎日の食事で全てのアルギニンをカバーしようとすれば、すぐにカロリーオーバーになり、肥満や糖尿病など生活習慣病のリスクが高まります。
現実的に食事のみから推奨摂取量のアルギニンを摂るのは難しいため、サプリメントを上手に利用して摂取量をカバーするのがおすすめです。
健康効果を向上させるには、アルギニンを摂取するタイミングも重要です。具体的には、運動前後や就寝前にアルギニンを摂取すると高い効果をもたらします。
アルギニンの摂取によって、運動後の疲労要因となるアンモニアの働きを抑え、疲労回復効果が発揮されます。さらに代謝が良好になるため、脂肪燃焼効果も期待できるでしょう。
なお、アルギニンの血中濃度は摂取後、約60分程度でピークに達します。そのため運動能力向上のためにアルギニンを摂るのであれば、60分前がおすすめです。
また、成長ホルモンの分泌を促せるため、就寝前もアルギニンの摂取に適したタイミングといえます。ホルモン分泌は歳を重ねるたびに減少し、40代以降は半減するため、健康な身体作りのためにもアルギニンの意識的な摂取が重要です。
ただし、アルギニンはアルカリ性の性質を持っているため、胃に負担がかかります。そのため就寝前は、アルギニン含有量が豊富なヨーグルトやプロテインドリンクなど消化しやすい食品からの摂取がおすすめです。
アルギニンは基本的には安全な成分といわれていますが、過剰摂取した場合は副作用を引き起こす可能性もあります。目安としては、1日に20,000mg以上のアルギニンの摂取によって、胃痛や下痢などの副作用が発生するといわれています。
食物由来のアルギニンは天然アミノ酸であり、1日に20,000mg以上摂取するのは現実的に難しいため、危険性はないと考えられます。ただし、栄養ドリンクやサプリメントを飲用する場合には、過剰摂取にならないよう注意が必要です。
とくにアレルギー体質のお子様は、過剰摂取により、アレルギー症状を悪化させるリスクがあるため注意しましょう。
ご紹介してきたとおり、アルギニンは疲労回復や免疫向上、血管・血流の改善作用や成長ホルモン分泌促進効果を持つアミノ酸の一種です。一方、同じくアミノ酸である「シトルリン」には血管・血流の改善作用や筋肉増強、疲労回復などの効果があり、共通点も多く見受けられます。
なお、同じアミノ酸であり、共通点も多いアルギニンとシトルリンですが、明確な相違点もあります。
1つ目の相違点は、口から摂取した場合の代謝経路の違いです。
アルギニンの約4割は腸管で代謝され、残りは肝臓に運搬されます。しかし、シトルリンは腸管から吸収されて大部分が腎臓に運搬されます。その後、シトルリンはアルギニンに変化し、全身に提供されます。
2つ目の相違点は、吸収率の違いです。
アルギニンは吸収率が悪く、摂取したうちの6割以上が消失してしまいますが、シトルリンはほとんど消失しません。
なお、シトルリンは外部から摂取されると、体内でアルギニノコハク酸という物質に変換されます。そこからアルギニンに変化して、再びシトルリンに戻ります。
したがって、シトルリンとアルギニンは、互いに反応しあう相互関係にあるといえます。
実際、アルギニンとシトルリンをそれぞれ単体で摂取した場合、血中のアルギニン濃度が通常時の3.5倍に達するまでに2時間前後の時間を要します。
ただし同時に摂取した場合、約30分で血中アルギニン濃度は4.5倍にまで上昇。約1/4の時間で、より高い血中アルギニン濃度を実現できるのです。
上記のとおり、体内のシトルリンの増加に比例して、アルギニンも増加し、互いに相乗効果を得ながら血管を拡張することで、運動パフォーマンスの向上などに繋がるのです。
アルギニンは体内で合成して生成できる非必須アミノ酸の一種です。
継続的な摂取により疲労回復や血管の拡張促進、美容効果のほかにも成長ホルモンの分泌促進や不妊治療など、さまざまな健康効果が期待できます。
ただし、アルカリ性であるアルギニンは過剰摂取により下痢や胃痛などを引き起こす場合があります。とくにアレルギー体質のお子様が過剰摂取すると、アレルギー症状を悪化させるリスクがあるため注意が必要です。
アルギニンの健康効果や副作用を理解し、毎日継続的に取り入れて健康維持に役立てましょう。
Held(ヘルト)では、クライアントの案件に見合った先的な配合や原材料の提案、自由度の高い製造ルートの設計が可能です。アルギニンを配合した製品の対応も可能なため、アルギニンを配合したオリジナル製品の販売を検討している場合は、弊社までお気軽にお問い合わせください。
管理栄養士、博士(生物環境調節学)、専門は栄養生理学 千葉 大成
東京農業大学大学院博士課程修了後、国立健康栄養研究所、大学研究機関で、食と健康に関わる研究活動および教育活動に18年携わってきました。研究活動としては、機能性食品素材に着目した骨粗鬆症予防に関する研究を主に行ってきました。一方で、教育活動の傍ら、地域貢献セミナーや社会人教育にも携わってきました。
そういった研究・教育活動から疾病をいかに予防するかを考えるようになりました。つまり、薬剤で“病気にフタ”をすることで病気を抑えることよりも生活習慣(食事、運動、サプリメント)で“病因を流す”ことによって疾病を予防していくことを積極的に働きかけていきたいと考えるようになりました。
2000年東京農業大学農学研究科博士後期課程修了後、2018年まで大学教育研究機関で主にフラボノイドによる骨代謝調節に関する研究に従事した。